強い言葉 「みをつくし料理帖」

こんにちは 平城匡史です

仕事に家族にいろいろなことが続き、
ブログを7月8月と二月休ませていただきました。
ようやく落ち着きましたので、今日から再開させていただきますね。

NHKで2017年にテレビドラマ化(主演黒木華)された、
『みをつくし料理帖』(高田郁ハルキ文庫)は、
2009年から2014年まで足かけ6年かけて全10巻が完結しました。

この小説の最大の魅力は、章ごとに物語を彩る季節の食材が、
思いもかけない料理に仕上がっていく過程が描かれているところです。

各巻4章×10巻=40章分の料理が、
どれも本当に一度は“食べてみたい”と思わせるシズル感をもって紹介されます。
挿絵もなく、イラストも動画もなく、文章だけで
料理それ自体を描き切る文章の力に敬服します。

そして調理の場面、食材の色形や香り、出来上がった料理のシズル感、
それを食べるお客様の様子と心の動き、
そのすべてが一本の強い線で繋がっていると感じさせるのは、
作者が主人公に、極めて重要な“料理の哲学”を与えているからです。
それを表す言葉が、第1巻1章と第9巻4章に出てきます。

「見知らぬ誰かの食の情景に、澪の作ったものが混ざる。
それを思うだけで、澪は胸の奥がじんと痛いような温かいような、不思議な感覚になる。
何かを美味しい、と思えば生きることができる。
たとえどれほど絶望的な状況にあったとしても、そう思えばひとは生きていける。
そのことを澪は誰よりもよく知っていた。-美味しいものを作りたい。」
『みをつくし料理帖第1巻-八朔の雪』p46

「嘉兵衛のような、あるいは柳吾のような料理人にはなれない。
後世に名を残すこともない。それでも良い、否、それでこそ良い・・・
そうまでして貫きたい一筋の道だった。
食は、人の天なり-その言葉が澪の心に光をもたらす。
食は命を繋ぐ最も大切なものだ。
・・・叶うことなら、この手で食べるひとの心も身体も健やかにする料理こそ、
作り続けていきたい。この命のある限り。そう、道はひとつきりだ。」
『みをつくし料理帖第9巻-美雪晴れ』p306

このように第1巻冒頭では主人公にとって「直感」であった料理への思いは、
物語の大団円近い9巻では、一回りして終生を支える料理の「哲学」に昇華されています。
物語を前へ進める力、すなわち人を突き動かす原動力は、必ず「強い言葉」がもたらします。

たとえ「直感」であっても、それが本質を射抜く「強い言葉」で表現されていれば、
それは強い危機や岐路のたびに繰り返し現れ、励まし、そして人を成長させていきます。

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